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まちづくりはビル再生から始まる_59 エレベーターなし!築50年超!血と汗のビル満室物語。
まちづくりはビル再生から始まる_59
エレベーターなし!築50年超!血と汗のビル満室物語。
中小ビル再生の専門会社であるテナワン株式会社(本社:港区赤坂)では、毎日様々な再生案件が持ち込まれる。当社では、ビルオーナー向けの再生ノウハウを掲載したブログを日々書きこんでおり。とくに30代から50代前後の2代目、3代目オーナーの読者が多い。ブログ読者の中には、別の仕事をしながら、ビルを突然継ぐことになったオーナーも少なくない。こうしたオーナーの駆け込み寺として、日々相談を受けている。
しかし、ビル再生を始めた当初は、そうしたノウハウもなく、当社も戸惑いながら、再生を手掛けていた。この連載では私たちが、血と汗を流しながら体得していったノウハウをお話したい。
最初の案件は、銀座線「三越前」2分の全10室の5階建のビル。親しいオーナーからの紹介で、相談というよりも、「こんなビルあるけどやらないよね?」と言われたビルだった。5階といっても、エレベーターはなし。10室中7室が空室で、トイレを流すと下のトイレに漏れるありさま。各室の電気容量は20Aしかない。しかし天高は2,800mmもあり、まるで映画で見たニューヨークのビルのような気持ちの良い空間。なにより駅から近い。
ただ、今でこそCOREDO室町が拡張し、映画館ができたが、当時は土日になると人が誰も歩いていないような街だった。ビルの再生をはじめた2011年は三井不動産が再開発に本腰を入れ始めた時期でもあり、2001年に開業したマンダリンオリエンタルホテルをはじめ、三越の新館ができるなど、将来性がある街に思えた。また、ビルのはす向かいには落語の寄席があり、和服姿の女性が歩くなど、江戸情緒あふれるところでもある。
屋上防水、電気幹線の引き換え、エアコン設置、専有部・共用部の塗装、トイレリニューアルなどをリノベーションが得意な建築家とともに実施した。館名は「日本橋小楼」とした。中国語にしたのは、英語や横文字ばかりのリノベーションビルが多い中、18坪程度の部屋が中心の規模が小さいこのビルを親しみやすい名前にしたかったのだ。「小楼」とは、小さな建物とか小さな宿、食堂といった詩的な表現のようだ。「日本橋の小さなビル」といったところか。
カメラマンに内装を撮影してもらい、素敵な募集資料も準備した。築50年のリノベーション物件。流行りのスケルトン風でモルタル床。DIY改修自由。リノベーションブームにのれそうだった。
さっそくレインズに登録、内覧会も企画し、オープニングパーティもやった。しかし、問合せがない。仕方なく神田から新橋にかけての仲介業者の名簿を洗い、真夏に足を棒にして70社回った。ほとんどが門前払い。内覧会も親しい人が数人来てくれる程度だった。誰も本気でこのビルを仲介する人はいない。「こういう内装が好きな人たまにいますけどね。」と言っていたが、扱ったことはなさそうだ。うんざりしていたら、一人だけ手を挙げた。知り合いの建築家が紹介してくれたギャラリスト。しかも工事途中の廃墟のような部屋を見て、可能性を感じてくれている。むしろDIYで内装を自由にいじらせてくれるビルがないらしい。聞くと、アートギャラリーは所属作家とともに内装をDIYして作るのは普通のようだ。こうして70社回って門前払いされていたビルが、知り合いの紹介ですぐに成約した。
(つづく)
(山田)