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次世代の働き方とオフィスを考える_25 引き継がれる内装と気持ち

次世代の働き方とオフィスを考える_25

引き継がれる内装と気持ち

 

当社が数年来、募集をお手伝いしている「アール五反田」は、大変人気のある西五反田の小規模オフィスだ。22坪と11坪の2プランがあり、白いフローリング調タイルを基調とした室内は明るく、ITベンチャー企業に人気がある。

 

 

リノベーションのきっかけ

今でこそ人気のあるアール五反田だが、数年前までは部屋ごとの仕様がまちまちで、賃料に差をつけざるを得ない状況だった。そんな中、白基調の部屋が人気のタイプとなり、退去の度に同じ仕様にするようになったのは、偶然ではない。

同ビルはもともとオーナーが改修に寛容であり、原状回復費用が安価に済むようテナントの相談にのったりするリノベーションの土壌があった。数年前退去したあるテナントは、オーナーの理解により、入居後に自社仕様のリノベーションを行った。

天井裏の懐が深く、天井を抜くと2,700mmの天高がある部屋は、間仕切りを撤去すると非常に広く見える。退去の際、オーナーはその仕様を引継ぐことにした。

 

引き継いだ内装を改良

さらに、カーペット仕様だった床を白いフロアタイルに変更し、床、壁、天井が白く、大変明るい部屋となり、以後この仕様がアール五反田の標準となったのだ。他の部屋もライティングダクトとスポットライトが残されたり、壁面収納が残された部屋などがあり、色々な仕様が少しずつ引き継がれ、ビルの歴史を重ねている。

 

テナントの思いとオーナーの思いやり

オーナーによれば、「10から20坪のオフィスをお借りいただいているテナントさんはまだ成長期にある会社がほとんどで、まだまだ経営資源を成長に向けなければならず、原状回復費用は抑えてあげたい。」という思いやりがあるようだ。

仕様もそれに合わせ、耐久性があり、一部貼替で済むフロアタイルや、場合によってはタッチアップだけで済む塗装仕様の壁など、原状回復費が下がる工夫をしている。

また、テナントからすれば、原状回復費用を恐れるあまり、壁に画鋲ひとつ打てないという日本の悪しき賃貸事情があるなか、自分好みの仕様が次のテナントに活かされていくという状況は、原状回復費用を節約できるだけではない、精神的な満足感がある。

実際、アール五反田は、景気の後退期でも、もと居たテナントが思いやりのあるオーナーを慕い、縮小移転で戻ってくることも多いと言う。

 

オフィスにつまった思いを引継ぐ

当連載第1話で、シェアリングエコノミーには素敵な副産物がある、と書いたが、この思いやりもそのひとつ。

エコノミーというと、原状回復費用が押さえられるとか、かっこいいオフィスにするための改修費用や居抜きで家具代の負担が減る、などの側面で判断しがちだが、実は重要なのは、その取引が気持ちの良いものであったか、という精神的な側面だ。

お気に入りの洋服や本を人にあげて、ほんわかと満足感を感じたことはないだろうか。自分の大切な思いを人に引き継いでもらうというのは非常に心地よいものなのだ。

とくに私の経験では、IT起業家は縁起を担ぐ社長が多い。創業の時を過ごし、熱い思いのつまったオフィスを、できれば次の起業家に継いで成功してほしい。

そんな話をしていた退去テナントの社長の顔はさわやかだった。

 

(山田)

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