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まちづくりはビル再生から始まる_63 テナントコミュニケーションとは何か。その①
まちづくりはビル再生から始まる_63
テナントコミュニケーションとは何か。その①
テナントと仲良くするのはNG!?
私は、業界に入って11年が過ぎたが、ビルの賃貸管理の常識でどうしても分からないことがある。それは「テナントと仲良くなるな。」ということだ。これにはいろいろな理由があって、担当との癒着を防ぐとか、賃料増額交渉がしづらくなる、規約違反を注意しづらくなるなど、言うべきことが言えなくなることを避けるためらしい。また、テナント同士が仲良くなることを嫌う風潮があり、これは賃料減額交渉などで徒党を組まれることを防止する意味があるようだ。しかし、この常識のせいでビルは重く暗い雰囲気となり、廊下で他テナントと会っても挨拶すらしないようなビルになってしまっている。
コンシェルジュの苦悩
最近、管理者の立場を利用し、某タレント夫妻の家に侵入して注目されたマンションコンシェルジュ。私も以前、コンシェルジュ付きのサービスオフィスを運営したことがあるが、コンシェルジュという職業は、非常に離職率が高い。その理由は暇だからだ。そうした勤務条件を好んで志向する人が希望してくることが多いのだが、人間誰しも極度の孤独には耐えられなくなってくる。しかも上記のようなテナントとのコミュニケーションを否定するような管理業界の風潮ではなおさらだ。
テナントとの交流はNG?
しかし、こうした職業に向いている人もいる。私が担当していた物件では、欧米出身の女性がコンシェルジュだったのだが、頼まなくても打ち合わせスペースに花を生ける、テナント一人一人の名前を覚えてにこやかに挨拶するなど進んでコミュニケーションをとっていた。小型のオフィスだったこともあり、社長1人の会社が多く、日常的に会うのがコンシェルジュくらい、という孤独なテナントは、彼女との会話を目的に入居していた人も多い。とくに外資系のテナントは、日本に知り合いが少なく、厳しい環境で仕事をしているため、彼女の笑顔に助けられていたようだ。会話が増えると心の壁が溶け、テナントが頼み事をしやすくなり、コンシェルジュ本来の様々なサービスメニューが活用されるため、忙しくなる。いつの間にか離職率という悩みも吹き飛ぶ楽しい仕事になっているというわけだ。
清掃員もコミュニケーション
ビルの清掃員には、高齢者が多い。とくに女性が多く、なかには各ビルから引っ張りだこの名物おばちゃんもいる。清掃で最も恐れるのはクレームだが、名物おばちゃんは大体クレームが少ない。それはテナントがおばちゃんに直接クレームを言えるからだ。もめるクレームは清掃員に直接言わず、管理会社に電話してくるケースだ。清掃員とテナントとのコミュニケーションがないから、言いづらいのだ。普段顔を合わせていない管理会社にはかなり強く言うテナントも多い。
うまくいってるおばちゃんはとにかく話好きな人が多い。挨拶はもちろん喫煙スペースでの会話にも加わる。くだらない日常会話の中で、自然と「給料が減った」「人員が増えた」など意外に重要な話を聞いて管理担当者に報告してくる人もいる。日常的にコミュニケーションをとっているので、情報量はかなり多く、私はその情報をきっかけに増床の話を掴んだこともあるくらいだ。もちろん故障個所やビルへの不満など、管理に重要な情報も数多い。
ビルにより様々な雇用体系があるため、今すぐ事例のようなベテランを投入できるわけではないだろうが、まずは朝、テナントとさわやかな挨拶を交わすところからはじめてはいかがだろうか?
(山田)