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一級建築士・一級建築士事務所とは|仕事内容を建築家との違いを比較して御紹介します
不動産業務に携わり、法規制や安全基準に関心を持つ皆さんにとって、一級建築士の役割が気になることも多いでしょう。
一級建築士とは、単に建築設計を行う専門家ではなく、建物の安全性、機能性、さらには美しさを形にするプロフェッショナルです。彼らは、国土交通省大臣の認定を受け、幅広い建築物の設計から工事監理までを手掛けることができ、その専門性は法律によっても認められています。
この専門家は、大規模な商業施設から私たちが暮らす家まで、あらゆる建築物に関わり、その設計から完成に至るまでの過程で中心的な役割を果たします。
安全基準や法規制を遵守しながら、施主の要望を形に変える一級建築士の仕事は、技術的なものだけではなく、創造性と緻密さを兼ね備えたアートワークでもあります。
本記事では、一級建築士とその事務所の持つ価値に焦点を当て、一級建築士と一級建築事務所が担う仕事内容を一級建築士が所属するテナワン株式会社 代表の石田が御紹介します。
弊社では、一級建築士事務所として設計などの実務を行うことはほとんどありませんが、一級建築士が在籍しており、資格取得者が技術的・法的理解の元、物件の活用法と実現に向けたシナリオ立案を行っております。
実際に、弊社に御相談いただいた物件の事例(通常の建築士事務所の守備班を大きく超えているかもしれませんが)を交えながら、御相談から入居者募集開始までの期間やその後まで御紹介させてください。
一級建築士・一級建築士事務所とは
まずは、一級建築士とはどんな人を指すのか、一級建築士事務所とは何か、建築士と建築家の違いは何かを順番にご説明しますね。
一級建築士とは?どんな仕事をする人?
一級建築士の定義は、国土交通省が次のように定めています。
出典:国土交通省 一級建築士の概要
一級建築士は、国土交通省によって認定された専門家で、あらゆる種類の建築物の設計や工事監理を担います。彼らは、大規模な商業施設から公共施設、さらには住宅まで、幅広い建物に対応可能です。
主な責務は、建築物の安全性や機能性を確保することに重点を置いた設計です。
一級建築士は、建築士資格の最上位に位置づけられており、設計可能な建物の規模や種類に制限はありません。そのため、彼らの業務範囲は非常に広く、意匠設計、構造設計、設備設計など、多岐にわたる専門知識が求められます。
建築設計では、単に美しさを追求するだけでなく、法規制、構造の安全性、環境への配慮など、多方面からの配慮が必要とされます。
不適切な設計は、法的な問題や安全上のリスクを引き起こす可能性があるため、一級建築士はその資格を活かして、すべての建築物が法令を遵守し、高い安全基準を満たしていることを保証します。
一級建築士資格の取得には、厳格な国家試験に合格し、必要な実務経験を積む必要があります。
一級建築士事務所とは
一級建築士事務所は、その事務所に所属する管理建築士が一級建築士であることを示唆しています。一級建築士とは、管理建築士とは、設計士事務所の業務のうち、技術的な事項を統括する建築士です。
名称が「一級」を含まない事務所でも、実際には一級建築士が業務を担当している場合があります。そのため、事務所を選ぶ際には、名称だけで判断するのではなく、事務所のポートフォリオや資格情報を確認することが重要です。事務所が「~~デザイン室」や「アトリエ~~」という名称であっても、一級建築士の方が在籍されていることは一般的に見受けられます。
一級建築士が所属する事務所であることは大事な要素ではありますが、皆さんが相談されたい内容に全ての事務所が当てはまるわけではありません。また、人格や仕事の進め方など、相性があることも確かです。
建築家は実際にプロジェクトが始まると、長い時間を共に過ごし、様々な相談をするパートナーになります。
まずは気になった事務所に問合せてみて、初期的な相談をしたり、受けられるサービスやポートフォリオ(過去の事例集)を確認してみることが大切です。そのやり取りの中で、各事務所の雰囲気や得意分野が分かってくることもあります。
建築士と建築家の違い
建築士と建築家の役割は、しばしば互いに重なり合う部分がありますが、その職務と認識は異なる点があります。
建築士は正式な国家資格を有し、建築の設計や工事の監理などの専門的な業務を行うことが法的に認められています。建築士はプロジェクトにおいて、法的な規制や安全基準を遵守しながら、技術的な指導と監督を行います。
「建築家ができること」を公益社団法人 日本建築家協会では、次のように定めています。
・良質な建築をつくる
・環境との良い関係をデザインする
・資産価値を向上させる
・人の未来に働きかける
・文化や誇りを創造する
出典:公益社団法人 日本建築家協会 建築家とは
ここからも分かるように建築家は、建築士よりも広範な意味を持つ言葉です。特にデザインや建築の芸術的側面に重点を置くプロフェッショナルを指すことが多いです。
建築家は、空間の機能性だけでなく、美学や形式、環境との調和を考慮した設計を行います。建築家には建築士の資格を持つ方もいれば、持たない方もいます。その活動は設計に限定されることなく、理論、教育、研究に及ぶことがあります。
建築士は、その資格に基づいて建築物の安全性や機能性を保証する責任があります。
一方で、建築家は、クライアントのビジョンを形にし、文化的または社会的な価値を反映させることに重きを置いています。
両者は建築プロジェクトにおいて重要な役割を果たしますが、そのアプローチや重要視する点が異なることを覚えておきましょう。
一級建築士事務所の仕事内容
一級建築士事務所は、建築プロジェクトにおけるリーダーであり、調整者としてプロジェクトの中心的な役割を担います。
プロジェクトの初期段階から関与し、施主のビジョンと実際の建築可能性を調和させるための企画や調査を担います。更に、調査に基づき、施主の要求からコストや実用性をふまえて設計図を作成し、これを基に建物が建設されるよう監督します。
建築士事務所の専門家は、施工者との間でコミュニケーションを取り、プロジェクトが計画通りに進行するよう努めます。工事が完了した後は、建物の最終検査を行い、すべてが規格に準拠していることを確認した上で、正式に施主に引き渡します。
一般的な一級建築士事務所の仕事の流れは次の通りです。
お問合せ
まずは各事務所にお問合せされると、各事務所の事例や雰囲気などがわかるでしょう。
お打合せのなかでは、各事務所の事例や御相談の物件のお話しから、仮に進める場合の全体の流れや期間、費用などをお話しすることが多いです。
敷地・物件調査
お話が進む場合は、敷地や改修物件の調査に移ります。また法的な確認や物件の特徴をふまえてオーナー様のご要望に併せた実施プランを各事務所が検討します。
プレゼンテーション
図面や模型などを使って、各事務所から具体的な提案がなされます。
基本設計
プレゼンテーションがなされた案をもとに各建築事務所と打合せを重ねながら、プランを具体的な計画に落とし込んでいきます。平面プラン、立面、断面、構造計画の大枠を決定し、実施設計へ進みます。
実施設計
基本設計のプランをもとに見積や実際に建物を作る為の詳細図面を作成していきます。詳細図面ができたら、施工会社へ見積を依頼していきます。
工事額調整
見積が出てきたら、ご予算に収まるように施工会社と確認・調整をしていきます。建物に合わせて、必要な費用をきちんと見極め、適正な費用に落し込んで行くことが大切だと考えています。
地鎮祭・着工
建築主さんと施工会社で工事契約を結んでいただき、着工となります。
工事監理・打合せ
工事が始まりましたら、図面どおりに工事が行われているか細かい現場でのチェックが大切になります。様々なリスクを想定しながら、現場で工事の進行をチェックし、着実に工事を進めていただけるように、月に数回は施主さんも交えて現場で打ち合わせを行います。
また、現場を見ていただいた際に、変更したい事項が出てくる場合もあります。そうした場合には、その都度検討して現場に要望を伝えます。
工事完了・引き渡し
工事が完了しましたら、施主さんと共に細かなチェックを行い、「引き渡し」となります。
引き渡しの際には、施工会社さんから使い方やメンテナンスについての説明をして頂き、今後の対応方法などを確認します。
一級建築士が在籍するテナワンの御提案事例
ここまでは一般的な建築事務所の仕事の流れを御紹介してきました。
続いては、一級建築士が在籍する弊社に御相談いただいた「アパレルショップからカフェへの業態転換」と「学校法人の活用」の事例をもとに、どんな御提案が可能なのか御紹介したいと思います。
どのような提案があるのか?他社との違いは?等、イメージを持っていただきお役に立てる場面がありそうでしたら気軽にお問合せください。
カフェへの業態転換の御相談
ビル再生では「1階をカフェにしたい」という御要望をいただくことも数多くあります。ただ、1度検討されたことのある方なら分かっていただけると思うのですが、古いビルだと意外に難易度が高いことがあります。
今回は、弊社がビル経営代行をさせていただいているビルの1階のテナントさんであるアパレルショップさんからの御相談です。
色々とお話を伺うと「カフェに業態転換したいんだけど、大丈夫かな?」ということでした。
私達は「なんともステキな御相談!」と前のめりにお話を伺いました。
物件の課題と弊社からの御提案
当初、想定された課題は「建物の用途が変更できない」という点でした。用途変更には基本的に建築確認申請が必要になります。
新築当時に完了検査を適正に受けていないと、役所に相談してもなかなか案件が進まないなんてことも…
他にも、この物件では建築確認(建築基準法)の問題と合わせて消防法上の問題もあったのであわせてご紹介です。
まず、もともとは事務所部分(特殊建築物でない)だったところをカフェ(飲食店:特殊建築物)にするので、建築基準法的には本来用途変更の建築確認申請が必要です。
こちらの物件では、新築当時に完了検査を受けておらず、確認申請自体を受け付けてもらえませんでした。ただ、建築基準法では「特殊建築物でも200㎡以内の用途変更なら建築確認不要」となっており、対象の1階部分は40㎡だったので、今回はこれを適用し、建築行政への手続きは不要となりました。
更に消防法では、飲食店は「特定用途」にあたり、独自に法的な基準を満たさないといけません。今回は、建物の一部を特定用途に変更しようとしたので、「複合用途の建物」という扱いになり、新たな消防設備をつけないとダメ、という規定にひっかかってしまいました。
実はこれにも対象部分が「建物全体の面積の10分の1以下(かつ300㎡未満)」なら規定を緩和する、という決まりがあり、消防設備の追加を免れます。
今回は面積要件を満たせず、消防署から「自動火災報知設備をつけるか、飲食店に変更する部分の面積を30㎡以下にしなさい」と指導いただき、結局は自火報設備をつけることにしました。
物件の特徴や背景によって乗り越えないといけない課題もありますが、無事にカフェへの業態転換を済ませて、憩いの場として営業されています。
福井県の学校法人だった物件をシェアオフィスへ転換
もともと専門学校だった建物を「古い建物の利活用を考えるスクール」で対象物件として扱ったのがきっかけでした。
専門学校と聞いた時に「学校法人ということは、資産を勝手に売買できないのでは?」と思っていたら、思った通り”学校法人”という法人自体から解体をしないといけませんでした。
ただ、この物件にも「屋上が広くて、空が抜けていて気持がいい」「元学校という背景にも面白さがある」と物件・商圏・背景と一つ一つを紐解きながら、解決策を検討させていただきました。
こうした提案は通常の建築士事務所の守備範囲を大きく超えていると思いますが、「ハードの改修イメージ、法的に許容される活用範囲」と「学校法人の取扱いや再生の事業プラン」を兼ね備えて御提案できたことで、スムーズにお話をさせていただけたのかなと思います。
物件の課題と弊社からの御提案
学校法人であること以外にも、古い物件なので、大きな用途変更をするには現行の法規に合わせて改修しなければいけなくなり、それでは費用が莫大になってしまう。
他には、鉄筋コンクリート造だから建物を解体したらお金がかかる。他にも車社会なのに駐車場がつくれないから工夫しないと厳しい等など、多くの課題がありました。
ほとんど値段がつかないような物件ではありましたが、周辺の物件状況を自転車に乗って調査して、初期費用や収益などを計算して、あらゆる角度から価値を算定し、誠意を持ってオーナーに説明することで、物件を購入することができました。
実際に、”学校法人”という法人自体の解体からスタートして、不動産を活用できるようになったことで、収益化できないとなかば諦めていたオーナーには驚きと共に非常に喜んでいただけました。
こうした経緯で完成したのは3階にシェアできるスタジオのあるシェアオフィスです。
丁寧な事前調査とシュミレーションをしたかいもあって、2022年の5月にオープンして、2023年の6月には満室になりました。誰も見向きもしなかったオフィスに価値が生まれた瞬間です。
100の物件があれば、100の解がある。扱う人によって大きく価値がかわっていく。
物件によって異なる課題に対して、建築基準法や消防法などの各種法令、物件の特徴に併せて解決策を検討し、柔軟に御提案しています。
弊社では、最も得意にしているのが「困った物件」です。工事だけ、デザインだけ、テナントの募集だけではなく、企画からテナントの募集まで一気通貫でやれる弊社の強みを最大限に活かして、皆様の物件の御相談に乗りたいと思っています。
皆様も「困った物件」にお心当たりがありましたら、気軽にお問合せください。
建築士事務所に関するよくある質問
建築士事務所と聞いても何をしてもらえるのか具体的なイメージが湧きにくい方も多いでしょう。その為、オーナー様もご自身の悩みに合わせて、どこに相談したらいいか迷われている方も多いように思います。
ここでは、建築士事務所に関する、よくある質問に回答させていただきたいと思います。
建物の建築では一級建築士と二級建築士でやれることに違いはある?
一級建築士と二級建築士の間には、設計可能な建築物の種類と規模に明確な違いが存在します。
二級建築士は通常、小規模な住宅や簡易的な建物の設計に従事しますが、建物の高さや規模に制限があるため、特定の大きさや複雑性を超えるプロジェクトには対応できません。具体的には、高さ13メートル以上、または軒の高さが9メートルを超える建築物の設計は許可されていません。
一方で、一級建築士は、そのような制限はなく、複雑で大規模な建築プロジェクトや特殊な構造を要する建物の設計を行うことができます。これには、大型の商業施設や高層建築・複雑な構造を持つ公共施設などが含まれます。
したがって、プロジェクトの規模や特定のニーズに応じて、適切な建築士を選択することが重要です。
一般的な住宅建設では二級建築士でも十分かもしれませんが、より大きく複雑なプロジェクトでは、一級建築士の広範な資格が必要となる場合があります。相談相手を選択する際は、建築士の経験や過去のプロジェクト、そしてクライアントの要望に最も適した能力を持つ専門家を検討することが肝心です。
設計料の目安はどれくらい?
建築プロジェクトにおける設計料は、建築士や設計事務所によって大きく異なることがあります。
一般的には、全体の工事費に対して10%から20%の範囲で設定されることが多いです。設計料は、プロジェクトの複雑さ、規模、建築士の経験や評判によって変動する場合が多いです。
設計事務所によっては、坪単価や固定料金で設計料を設定している場合もあるので、プロジェクトを開始する前に、料金体系について詳しく確認するようにしてください。
また、国土交通省が示すガイドラインも参考になりますが、実際の料金はそれを上回ることもあれば下回ることもあり得ます。(参照:国土交通省HP「設計、工事監理等に係る業務報酬基準について」)
設計料はプロジェクトの成功に直接関わる要素の一つであり、透明性と合理性をもって選定されるべきです。事前に複数の見積もりを比較検討し、最適な選択をすることが推奨されます。
ハウスメーカーでは設計料がかからない?
ハウスメーカーでの設計料では、表面上、コストが発生していないように見えるケースがあります。これは、標準化されたプランに基づいた建設で、設計のカスタマイズが限られている場合に、このようなケースが発生します。
実際には、設計に関連するコストは総工事費に組み込まれており、明示的に「設計料」として項目化されていないことが多いです。
ハウスメーカーは効率化を図るため、一般的なプランを用意し、それに沿って建築を進めます。
これは、個々の建物に特化した詳細な設計作業を省くことを意味し、結果的に設計段階のコストを抑えることが可能になります。ただ、このアプローチは、建物や利用者の独自のニーズに完全に対応できない場合があります。
また、設計と施工の一元化は、コスト削減や効率性の向上に寄与しますが、独立した監理機能の欠如が潜在的なリスクを生じさせる可能性があります。そのため、ハウスメーカーを選択する際は、コストの透明性、設計の柔軟性、そして建築過程の質に注意深く考慮する必要があります。
まとめ
一級建築士および一級建築士事務所は、建築プロジェクトにおいて不可欠な役割を果たします。
専門知識、経験、そして創造性は、安全で快適、かつ持続可能な建築環境を実現するために重要であり、土地や物件の持つ特徴や課題にあわせていかに活用するかが、プロジェクト成功の鍵になります。
弊社では建築士事務所が担う、所謂、設計業務単体でという御相談は少ないですが、古い困ったビルの御相談を企画からテナントの募集まで一気通貫で御相談に乗っています。
100の物件があれば、100の解がある。扱う人によって大きく価値が変わります。
もし本記事の事例や考え方を元に、皆様の悩みのお役に立てるようであれば、気軽にお問合せをいただければと思います。
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